天気予報では、温帯低気圧のことは温帯を省略して低気圧と言いますが、同じ低気圧でもただ低気圧と言わずに特別扱いされるものがあります。熱帯低気圧がそれで、天気予報の解説でも熱帯低気圧という言い方をしますし、天気図でも低ではなくて熱低と表されます。どうして同じ低気圧なのに熱帯低気圧だけわざわざ熱帯をつけるのでしょう。
熱帯低気圧は文字どおり熱帯地方で発生する低気圧で、日本へは夏の南風に乗って近づいてきます。温帯低気圧との最も大きな違いは、温帯低気圧は違う性質をもった空気が混ざり合う現象であるのに対して、熱帯低気圧は暑い空気だけでできた雲の渦巻きであるということです。ですから、温帯低気圧特有の前線が熱帯低気圧にはありません。だからと言って、どうして温帯低気圧と区別しなければならないかというと、日本に近づいてくる熱帯低気圧のほとんどが台風という名前で呼ばれるからです。
熱帯の海は水温が30℃ほどあって、非常に暖かくなっています。この海水がすぐ上に乗っている空気を暖めると同時に、蒸発によって水分をたくさん放出し、熱帯地方では発達した積乱雲、いわゆる入道雲が多く発生します。
この積乱雲がまとまって渦巻状になったものが熱帯低気圧になります。熱帯低気圧が南の海上にあるうちは、引き続き海から熟と水分を補給されるので、熱帯低気圧は急激に勢いを強め、やがていくつかは台風にまで成長し、さらにそのうちには日本の近海までやってきて、各地に暴風や豪雨をもたらすものもあります。
日本の近海はさすがに熱帯の海ほど暖かくありませんから、台風は次第に元気がなくなって衰え、弱い熱帯低気圧に戻ってしまうものも多くあります。 しかし、衰えたりと言えども元台風、相変わらず積乱雲のかたまりであることには変わりありませんから、強い風も吹けば大雨も降らせます。
この場合は、温帯低気圧から長く伸びた前線のように、中心から離れた所でもシビアな現象が起こるわけではなく、危ないのは低気圧の中心付近に限られます。そして、たまに息を吹き返して再び台風に復活したり、変質して温帯低気圧に変わって再び発達したりすることがあるので、衰えたとしても全く目の離せない存在なのです。